ふと、視線を感じて顔をあげれば目の前に座りこちらをじっと見詰めていたカダージュと、ばっちり目があった。ずっと見られていたような気がするのもきっと気のせいじゃない。
途端に恥ずかしくなって、紛らわすように口を開く。
「なに?…なんかついてる?」
「ってばまた仕事のこと、考えてたでしょ?」
「…わかった?」
図星だ。どうして分かったのだろう、と首を傾げる私にカダージュは当たり前だよ、と笑ってサラダを差し出してきた。
「のことならなんでも分かるよ。」
ずっと見てるんだから。−にっこりして言われた言葉の危なさにもいい加減慣れてきた。慣らされてしまった。寧ろ、何処か照れ臭くてこそばゆい嬉しささえ感じてしまっている自分に思わず顔をしかめる。
「…でも、」
一人百面相をしていた私の口につん、とブロッコリーが当たる。
「ご飯の時は仕事のこと考えちゃ駄目だよ。せっかくボクが作ったんだから、味わいながら食べてよね?」
ほら、あーん。と差し出されたフォークを前に、思わずカダージュとフォークの先のブロッコリーとを見比べてしまう。ほら早く、とせかすカダージュの顔に一切の悪気は見当たらず、ただ純粋な笑顔だけが浮かんでいる。
(これに弱いんだよなぁ。。。)
毎度のことながら、この笑顔を前にするとどうにも断る気力をそがれてしまう。どんなお願いが来ても受け入れてしまいそうで怖い。―怖い、けれどそれも悪くないかな、と思っている私がいたりして
結局は困ったなぁと苦笑するだけのくすぐったい毎日が続いている。
「しょうがないなあ―――!?」
躊躇いがちに唇を開けば、テーブル越しにカダージュがふいに距離を埋めて近付いてきていた。びっくりする間もなく唇が塞がれる。掠め取るように重ねられた唇が次第に深く強く擦り合わされる。求めるように、味わうように。
「ん……」
吐息が漏れる―指から箸が滑り落ちて、かたんと小さな音を立てた。
こうなってはご飯どころではない、味わって食べろと言ったのは確か今この目の前にいる男ではなかったか。恨めしいような悔しいような目でじとりと睨み付けた私に彼は、
「ウソ。やっぱりボクのことだけ考えていて。仕事の時も、ご飯の時も―いつだってね」
最後まで味わうように湿った唇を舐めて少し意地悪に微笑んでそう言った。